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普段の生活で見聞きすることを作品の世界で表現
溢れるミステリー愛で毎日筆をとる新人作家
ペンネーム・麻根重次として執筆した『赤の女王の殺人』がこのほど、島田荘司選 第16回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞(通称・福ミス)を受賞。本年3月に講談社から出版されました。幅さんに作品の誕生秘話をききました。
幅拓哉さん
信州大学大学院で進化生物学を専攻後、安曇野市職員へ。市職員として働きながら小説を執筆中。これまでに商工、福祉、環境など多数の部署を歴任。1児の父。
好きが転じた小説家の誕生
小説を書き始めたのは今から6年ほど前のこと。もともと小説が好きで推理小説やミステリー小説を好んで読んでいました。特にきっかけがあった訳ではなく、自然と自分でも書いてみようと思うように。書き始めて3カ月ほどで第1作目が完成し、すぐに2作目『赤の女王の殺人』の執筆に取り掛かりました。
1作目はたまたま知った別の文学賞に応募しましたが、1次選考すら通らず「やっぱり簡単じゃないな」と実感しました。そして書き終えた『赤の女王の殺人』はどこへも応募せず自宅のパソコンの中で眠っていました。その後は作品を書いてはインターネット投稿サイトに掲載するなどし、満足していました。
書き始めて5年ほどたった時、福ミスの存在を知りました。島田荘司さんのファンだったこともあり「これは出すしかない」と『赤の女王の殺』を応募。そしたら思いがけず賞をいただき、すごく驚きました。
場面描写のネタは私生活から
どうすれば読者を驚かせられるか――。これを常に考えています。これまでに思い付いたアイデアはたくさんありますが、「これは使える!」と思えるものはなかなか出てきません。それでも、ストックしてある複数のネタを組み合わせることでおもしろいストーリーが生まれることもあるので、思い付いたアイデアはすべてメモしています。
小説の書き方は人それぞれだと思いますが、私の場合は初めに謎やトリックを決めて、それから人物や場面の設定を肉付けしていきます。実際に書くときはシーンごとに絶対に必要な情報をまず配置し、他の情景を描写します。情景は大抵その時のノリと勢いで書いています。普段の仕事や生活で見聞きしたことがベースとなっており、『赤の女王の殺人』では身近な景色、建物などを登場させました。
デビューしてからも、やること自体はあまり変わっていませんが、執筆への意識が「お金を出して読んでもらっている」に変わりました。現在は次の作品を執筆中で、より本格のミステリーに挑戦しています。担当編集者からは「デビュー後3作目までに売れないと生き残れない」と言われており、プレッシャーを感じていますが、これまでどおり毎日少しずつ、マイペースを崩さず書いていこうと思います。次回作を楽しみにしていてください。
<Memo>
●島田荘司
広島県福山市出身の日本を代表する推理作家。デビュー作「占星術殺人事件」の他、「斜め屋敷の犯罪」「アトポス」など著書多数。
●福ミス
広島県福山市が主催する長編推理小説を対象にした公募型新人文学賞。最終選考は島田荘司さんがひとりで行っている。
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