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背中を押してもらって得た今は 誰かの背中を押す今に
ごみから希望を生み出す 優しさあふれるペットボトルアーティスト
制作した作品の売上を環境支援や難民支援に寄付している大山智寛さんに話を聞きました。
大山智寛さん
奄美大島生まれ神奈川育ち。大学卒業後は都内のアパレル関係の仕事に就く。安曇野へは2023年に移住。作品作りの技術提供に力を入れ、現在はフィリピンのセブ島の海上スラム支援に関わっている。
ごみが生む感動とお金
コロナ禍で断捨離がはやった頃、当時住んでいたマンションのごみ集積所に集められたごみの多さに驚いた妻が、その処理や行き先を調べ始め、環境問題に必死に取り組み始めました。自分も何かできることはないかと調べていた時に、ペットボトルやプラスチック食器で花を作る動画を発見。見よう見まねで一輪の花を作り、SNSに載せたところ欲しいという人がいました。同じ頃、娘からお小遣いを難民支援団体に寄付したいと相談がありました。拾ったごみに手を加えることで循環が生まれると思い、作品の制作・販売を始め、売上金を寄付し始めました。
作品作りの転機となったのは妻と出かけた講演会で、海ごみを使った作品を手掛けるアーティストの存在を知ったこと。ごみが感動とお金を生むことに強い衝撃を受けました。そして、講演者がSNSに私の作品を投稿してくれたことがきっかけとなり、当時海洋プラスチックアートの拠点施設・TRUEBLUEを手掛けていた作家・高橋歩さんとつながることに。高橋さんからTRUEBLUE第1号店のランプシェードの制作依頼を受けたことで、作品作りに対する考えが大きく変わりました。
背中を押してくれた妻
ランプシェードの制作期間はわずか1カ月。納期に間に合わせようと会社の行き帰りの電車の中でさえも作業に徹しました。完成したのは納品当日の家を出る10分前。そのまま作品を持って沖縄に飛びました。設置を終え、多くの皆さんから感動の声をもらったことで、本格的に作品作りをしたいと思い始めました。
やりたいことでは家族を養っていくことが難しいと葛藤していたとき、親密だった叔父の急死に直面しました。「人はいつ死ぬかわからない。明日かもしれない」そう考え、後悔しない選択をしようと妻に相談すると、返ってきたのは「親だからってやりたいことをあきらめるのはよそう。仕事辞めちゃえ」という言葉でした。子どもたちにはやりたいことをやってと言いながら、自分はどうか――。子どもたちにやりたいことをやっている親の姿を見せたいと願った妻の言葉に背中を押され、仕事を辞めて安曇野に移住。さまざまな縁にも恵まれ、家族がそろって笑い合える豊かな暮らしができています。
現在は受注品制作の傍ら、エコアートプロジェクトとして海上スラムの住人にペットボトルアートの作り方を教えています。ごみをアートへ。そして、それが彼らの収入となるよう、私が背中を押してもらったように、私も誰かの背中を押せたらうれしいです。
<MEMO>
●TRUEBLUE
沖縄・古宇利島を拠点に、海で回収した海洋プラスチックでアート作品や生活雑貨等の制作・販売やアップサイクル体験を提供する工房&ショップ 。
●エコアートプロジェクト
環境保護等への関心を高めることを目的に廃材やリサイクル素材で作品を制作し、アートを媒介に地域を活性化させようとする取り組み。