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プロが立つ土台に大切なのは 日々の積み重ね
超精密金属加工の精鋭を束ねる現代の名工
「ものづくりの緊急医」として、どんな依頼にも応じる有限会社多田プレシジョン。その代表取締役として80歳を超えてもものづくりの第一線で活躍する多田勲さんに、プロフェッショナルとしての考え方を聞きました。
多田勲さん
60年以上金属加工に携わり、汎用工作機械に関する技能に卓越。黄綬褒章受賞/中央職業能力開発協会認定 高度熟練技術者/労働省認定機械1級技能士4種目取得/1級機械競技大会優勝
土台は、全力と挑戦
中学校を卒業後、泉精器製作所に入社し、金属加工に携わりました。仕事がおもしろくて、通りかかった工場でフライス盤の音が聞こえると「教えてください」と飛び込んでいくような生活をしていました。小さい頃から何をするにも全力で、夜学に通って資格を取ったり、ぜいたくしたければその分だけアルバイトをしたり。仕事も遊びも全力でこなしました。思い付いた時がスタートで、常に「今やらなくていつやるんだ」という気持ちでした。それが今の土台となっています。
ものづくりの緊急医
ものづくりは、人助けなんですよ。工場などにある機械は、たった1つの部品の故障で生産ラインが止まることがあります。生産ラインが止まると、その先のお客さんに迷惑がかかる。だから「助けてほしい」「納期に間に合わせてほしい」といった依頼があれば、それが深夜でも今日の明日でも絶対に応えます。頼まれたことをこなすのは当たり前で、依頼主が何を求めているかを見抜き、納品する。それがプロの仕事です。
会社のモットーは「ものづくりの緊急医」。医者が患者の命を救うために1分1秒を争うように、私たちの仕事もスピードが命です。そのために、使う工具を整然と持ち場に配置して効率性を上げたり、同じ失敗を繰り返さないよう全体で共有し、コミュニケーションを大切にしたりしています。
良い仕事をするためにチームワークを育むことは重要で、社員でソフトボールチームを作ったり、楽器をそろえてバンドを組んだりもしました。そして、もう一つ大切なのが私生活。身だしなみ一つにしてもきちんとすると、それが製品に反映するんですよ。
受け継いでほしいプロの心構え
社員には、時に厳しいことも言います。プロの技術は一朝一夕で身に付くものではありません。若い時からの積み重ね、多少無理ができるこの時期にどれだけ挑戦し、成功体験を得てきたかという土台があってはじめて、技術が身に付いていくんです。学校は教わるところですが、会社は学ぶところ。先人の技術を盗み、自らの技能を高めていく努力が必要です。常に明確な高い目標を持ち、それに挑戦していくのがプロ。職人としての心構えを記した「職人心得十五箇条」に込めた考え方を、今後も継いでいってほしいですね。
<Memo>
●現代の名工
金属加工、大工など職業を分類した全22部門の技能者のうち、厚生労働大臣から表彰された卓越した技能者の通称。
●フライス盤
刃物を回転させて金属などを切削する機械。そのうち、一連の操作を手動で行うタイプの汎用フライス盤は作業者の技術が求められる。
<外部リンク>