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きらめく瞬間のため 全身全霊をかけて打ち込む
長年培った世界を舞台で表現する落語家
噺家・乙女屋恋さんとして、さまざまな場所でお客さんの笑顔を引き出している鶴田里美さんに話を聞きました。
鶴田里美さん
「乙女屋恋さん」として数々の席で活躍中。持ちネタは「鈴ヶ森」「堪忍袋」「宿屋の仇討」「船徳」など。鶴田さんが所属するサークル「まつかわ落語会風まんだら」では、新たな仲間を募集中。
大人の落研との出会い
落語に出会ったのは高校生の時でした。入学後、クラブ活動の見学をしていたときに誘われて落語研究会に入部。友人と一緒に当時の落語家の師匠たちの噺を覚え口演するなど落語に打ち込み、何とも言えない心地良い日々を過ごしました。高校卒業後、県外の大学へ進学しましたが、迷わず落語サークルに入りました。大学が東京に近かったこともあり、江戸落語のプロの噺家の口演を聞く機会も多くあり、卒業後は落語家の道に進むことも頭によぎるほどのめり込んでいました。
就職で県内へ戻ってからは地域のイベントなどで口演したり、母の主催する踊りイベントで披露したりする活動にとどまり、学生時代のように落語が生活の一部となるような生活ができなくさみしく思っていました。
そんなあるとき、安曇野文芸の執筆を依頼され、落語に打ち込んでいたことを書いたことが転機となりました。当時の「まつかわ落語会風まんだら」の会長がその記事を読み、寄席に呼んでくれたのです。「大人の落研があるんだ!」と心が躍りすぐに入会。これまで多くの席で口演しました。
風まんだらでは、イベントなどに呼ばれ出向く落語出前と会が主催する寄席を、年間合わせて約30回行っています。そのほとんどのお客さんは高齢なのですが、口演のたびに足を運んでくれる人もいますし、風まんだらの活動が口コミで広まり来てくれる人もいて、とてもうれしいです。
きらめく瞬間を生きがいに
年を重ねると子どもが巣立ったり、親が先立ったりと、どこか寂しい気持ちが強くなります。そして、まるで子どもがマラソンを死に物狂いで走るような、全身全霊をかけて何かに打ち込む「きらめく瞬間」の数が減ってきます。私にとって落語は、そのきらめきを感じる瞬間であって、生きがいです。
落語は、同じ話でも噺家の口調や抑揚、しぐさ等で聞き手の感情が変わります。私も、何度も同じ話を繰り返し聞いてストーリーを覚え、私なりのアレンジを加えて口演しています。お客さん全員が笑わなくてもいいんです。その場を楽しむ自分がいて、数人でも笑顔になってくれれば幸せを感じます。
これからも、気心知れた仲間と続けていきたいし、新しい仲間とも出会いたいです。そして、私たちの活動を知ってもらい、多くの人に聞きに来てもらいたいです。
<Memo>
●安曇野文芸
「みんなで創る郷土文芸誌」として年2回発行している刊行物。平成10年11月に創刊、最新は令和6年11月発行の50号。
●まつかわ落語会風まんだら
松川村公民館開催のお笑い講座の受講生らが立ち上げたサークル。月1回の例会のほか寄席や県内各地での口演を実施。会の師匠は現・古今亭圓菊さん(設立時は菊生さん)。
<外部リンク>