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欅の大木などがあると上を見上げたくなる。場所によって、ヤドリギがついているから。
ヤドリギがつく木は、欅のほか、桜・柳などもある。屋敷林を持つ家の多い安曇野では、ヤドリギを目にする機会も多い。
ただし、どこにでもあるわけではなく、ヒレンジャクの通り道にあるので、ヤドリギのある場所は帯のようになっていることが多い。そして、このヤドリギ、今は親木の養分を吸い上げて、親木を弱らせてしまう厄介者扱い。一本の親木に一三〇個もついていれば、親木が弱るのも、さもありなん。
ちなみに、ヤドリギは自らも光合成をおこなう半寄生植物。
ヤドリギの種は冬に熟し、冬鳥のレンジャク類やヒヨドリなどが好んで食べる。ヤドリギの種は非常に粘り野鳥がフンをすると納豆のように糸を引いて、枝にとりつく。生きている樹木の枝に密着するための種の戦略なのだ。
このヤドリギ、すでに万葉集の時代にも詠まれている。「ほよ」がヤドリギである。
あしひきの 山の木末(こぬれ)の ほよとりて かざしつらくは 千歳ほくとそ
大伴家持(巻18 四一三六)
天平勝宝2(750)年正月2日の宴席での歌。時に家持33歳。
山の木の梢に生えているほよをとって、髪飾りにしたのは、千年も続くよう長寿を願ってのことだよ。
ヤドリギは冬の間も葉を落とさず、緑色を保ち陽の当たり具合によっては黄金に輝くので、人々は生命力や神聖さを感じた。ほよほよと振ってそこに神を宿したと折口信夫は説く。
この不思議な生命力と神聖性をひめたヤドリギは、西洋でも神聖な木とされ、イギリスの社会人類学者 ジェームズ・フレイザーはイタリアのネーミ地方におけるヤドリギ信仰を研究対象にした『金枝篇』(『Tha Golden Bough』 注)
注:ジェームズ・ジョージ・フレイザーJames George Frazer 1854年1月1日から1941年5月7日。スコットランド グラスゴー出身 『金枝篇』はネットで購入可能
ほよ(ヤドリギ)が神の依り代として神聖な植物とみなされているのは、日本だけではない。
ヨーロッパでも古代信仰として、ヤドリギを神聖視する習俗は残っていて、ヤドリギの下でキスした恋人は結ばれる、と語り伝えられている。イギリスでは家によって、クリスマスやパ-ティのデコレーションとして飾る家もあるとのこと。