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「岩原の自然や歴史がこれからの世代にきちんと受け継がれていってほしい。ここで生まれ育った立場として、多少なりとも地域に恩返しをしたいんだよね」
安曇野市の西に位置し、常念岳の山裾に広がる堀金地域の岩原区。この地域の魅力を見つめ直し、後世に引き継いでいこうと平成26年に「岩原の自然と文化を守り育てる会」(現在の会員約50人)を立ち上げ、代表を務めている。これまでの活動が評価され、令和3年度の手づくり郷土賞(国土交通大臣表彰)の一般部門に選ばれた。「受賞も地域の元気づくりにつながる」と喜ぶ。
会として主に「『ガイドブック これぞ安曇野 岩原のタカラ』の作成」「オオルリシジミの保護活動」「安楽寺跡の整備」に取り組んできた。
岩原区長を務めていた平成25年度。市から絶滅危惧種のチョウ・オオルリシジミの保護活動に協力してほしいと打診され、国営アルプスあづみの公園からは里山文化ゾーンの開園に合わせて地域と一体となった活用策を進めたいとの相談を受けたことが会設立のきっかけだ。元小学校教諭で豊科郷土博物館長だったこともあり顔が広く、「ちょうど区長をやっていた時を狙われて色々と頼まれちゃって」と笑う。住民に声を掛けて約10人で会を立ち上げた。
会の立ち上げ以降、岩原の見どころを調べながら月1回ほど地区公民館で紹介。次第に区民から「資料にまとめてほしい」と依頼されるようになった。ちょうど豊科郷土博物館長を辞めた頃で「隠居すれば楽だけど、これまでの話のタネをまとめれば国営公園の来訪者が岩原へ訪れるきっかけにもなる。小さな区でも素晴らしい自然や文化があると知ってもらえば」と考え、ガイドブック作成を決意した。
「作るからには1年で必死になって作ろう。とにかくやってみよう」との思いで、計8人で編集。原稿の8割ほどを百瀬さんが執筆し、A5判188ページに66か所の見どころや歴史を収めた1冊が完成した。「8人それぞれが力を合わせて本当に1年で作り上げることができた」という本は計3000冊印刷。公的機関に約200冊寄付し、現時点で2000冊ほどが売れる好評ぶりだ。
(上の写真) ガイドブック(左)とガイドブックを読む百瀬さん
会の大きな活動にオオルリシジミの保護活動もある。ここ数年は、幼虫が食べる「クララ」というマメ科の植物の苗を市民らに配布。令和3年5月、百瀬さんの庭でオオルリシジミの羽化が確認された。保護区がある国営アルプスあづみの公園以外で羽化が確認されたのは26年ぶり。「オオルリシジミの生息域は確実に広がっている。さまざまな団体が保護活動に取り組んでいるが、会が若干なりとも手助けできたことはうれしい」と話す。
(上の写真) 市民にクララを配布する様子 ※岩原の自然と文化を守り育てる会提供
満蒙開拓団として満州に渡った父が岩原に戻り、林だった場所を開拓した。「歴史も魅力もある岩原が、これからの世代にきちんと受け継がれていかないのは何か嫌だ」。会として取り組んでいる際のモチベーションに「岩原を次世代へ」との思いがある。
一方、「自分自身が納得できて、やりたいと思うことしかやらない。まず自分が楽しくなくちゃ人に勧められないよ」。まちづくり、地域づくりは「自分がやりたいことをやりたい範囲でできる限りでいいじゃない」と笑顔を見せた。
(掲載情報は取材日の令和3年12月20日時点です)
※写真撮影時のみマスクを取っていただきました。