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「障がいの有無や年齢に関係なく、誰でも簡単に情報を得ることができる社会にしていきたい」。聴覚障がい者を中心に、音声ではなく文字情報が必要な方への支援に取り組む「あづみの文字情報サポートネット」の代表を務めている。依頼に応じて講演会や講座、イベントなどで字幕の配信を行っているほか、音声認識技術を使って自動で文字化するアプリ「UDトーク」の使い方などを学ぶ講習会を開いている。
上林さんによると、国内で聴覚障がいの障害者手帳を持っている人は約35万人、聞こえに不安を持っている人は約3000万人に上るという。ただ、手話を使っている人は聴覚障がい者のうち一部にとどまるといい、「中途失聴、難聴、加齢性難聴のほとんどの方は、手話では話の内容があまり分からない。字幕であれば情報がより伝わりやすい」と説明する。「難聴や中途失聴は、ストレスなどをきっかけにいつ誰でもなる可能性がある。自身が当事者になった時、字幕配信をしている団体があることや、自動で文字化するアプリがあることを知っていれば大きな力になる」と強調する。
聴覚障がい者への支援を始めたきっかけは、愛知県に住む友人が30代の頃に難聴になったことだ。同じ頃、話の内容を要約して文字で伝える「要約筆記」に関する講座を安曇野市が開くことを知り、「手話を一緒に覚えることも良いと考えたが、文字で支援する方法を学びたくなった」と振り返る。
市の講座で学んだのは手書きによる要約筆記だったが、その後、より早く文字を入力するためパソコンによる要約筆記に移行。6年ほど前に、音声を認識して自動で文字に起こすアプリ「UDトーク」の開発者と知り合い、アプリを使いながらパソコンなどで修正する方法を取り入れた。「音声認識技術を使った自動の文字化は、技術の進展で精度が高くなっている」と話す。
現在は、手書きで要約筆記をしている人や聴覚障がいのある方など計約20人で「あづみの文字情報サポートネット」として活動。主催者からの依頼に応じて、さまざまなイベントで字幕配信を行っているほか、UDトークの使い方を学ぶ無料の講習会を随時開いている。UDトークは音声の文字化だけでなく、多言語翻訳も可能なため、「聴覚障がいの方だけでなく、外国籍の方への支援も進めていきたい」と話している。
(上の写真) 講座などでの字幕配信や多言語翻訳が可能な「UDトーク」
(掲載情報は取材日の令和3年9月29日時点です)
※写真撮影時のみマスクを取っていただきました。